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石井クリニック
今野みどり院長に聞く
今野みどり院長に聞く
Talk: 7
石井クリニック 今野みどり院長に聞く
photographs:岡本卓大 / TAKAHIRO OKAMOTO

皮膚が健やかであることこそ、美しさの鍵」というのは石井クリニックの今野みどり院長です。肌は見た目を左右するだけではなく、外部から体を守るバリア機能、体温調節機能や免疫器官、感覚器の役割を持つとても重要な臓器。健やかな肌に大切なのは水分と紫外線対策。正しい肌ケアと最新の美容事情、さらに微細な水粒子を用いた最新美容について詳しく伺います。
肌に悩みを抱える方は多いと思いますが、クリニックではどのような肌の悩みや疾患が多いですか。
今野今、2つのクリニックで治療を行っていますが、M&Mスキンケアクリニックでは「シミ」や「肝斑」の患者さんが多いですね。こちらでは私は主に形成外科的手術と美容医療を担当しているのでそれが要因かもしれません。石井クリニックは、「ニキビ」と「シミ」のお悩みが多いです。先代の石井禮次郎が日本で初めてエステを併設した美容皮膚科として開業したクリニックで、患者さんの年齢も幅広く、おばあさま、お母さま、お嬢さまと三代で受診される患者さんもいらっしゃいます。

若い世代はニキビ、年齢を重ねるとシミやたるみなど、各世代を通して肌に関する悩みは尽きないという印象があります。
今野そうですね。若い世代や男性の場合はニキビやニキビ痕、毛穴の開きや黒ずみといったお悩み。女性はシミや肝斑で悩んでいる人が多く、30代以降はシワやたるみなどのお悩みも多くなります。しかも、年齢を重ねるほど、日焼けや加齢によるシミ(老人性色素斑)だけでなく、そばかす、肝斑、ほくろなど複数のシミが混在しているケースが多くなり、そうなると治療もちょっと複雑になります。例えば、シミ(老人性色素斑)はレーザー治療で取ることができますが、肝斑は摩擦などの刺激でも濃くなるためレーザー治療で悪化することがあり、おすすめできません。
女性で肝斑に悩む人はとても多いですよね。肝斑の近くにシミができている場合はどうするのですか?
今野まず、トラネキサム酸やビタミンCなどの内服薬や外用薬などで肝斑を薄くしてから、シミ(老人性色素斑)をレーザーで取るなど段階的な治療が必要になってきます。シミやそばかすはトレチノイン療法やフォトフェイシャルを用いる場合もあり、脂漏性角化症が混在していれば炭酸ガスレーザーで取り除くなど、少し時間をかけて複合的な治療をして改善していきます。
シミの種類ごとに異なる治療が必要になるのですね。さまざまな肌悩みを治療されると思うのですが、皮膚科と形成外科では治療にどのような違いがあるのでしょうか。
今野皮膚科と形成外科は皮膚の疾患を治療するという「目的」は同じですが、「治療方法」が異なる場合があります。簡単に言うと、皮膚科は主に皮膚疾患に対して内服薬や外用薬で治療を行い、形成外科は傷や火傷や骨折などで欠損した組織の機能や外観を再建するために、外科的治療も駆使します。ケガや手術跡などの傷跡などをレーザーやメスを使って目立たなくしたり、イボや粉瘤などを手術で取り除いたりするのが外科的治療です。アプローチは異なりますが、「皮膚にまつわる病気を治療する」という点では同じですよね。
美容医療については、皮膚科でも形成外科でも行っていますがどんな違いがあるのでしょうか。
今野美容医療は、シミやシワ、たるみ、毛穴などの改善が目的ですが、メスを使わずに行うものも多く、例えば、シミはレーザーで、シワはヒアルロン酸やボトックスを注入して改善したり、たるみはHIFU(ハイフ)やサーマクール、タイタンといった超音波や高周波の熱エネルギーを利用した機器を用いて引き締めるなどさまざまな方法があります。多くはメスを必要としないので皮膚科でも可能で、むしろクリニックごとに扱う機器や施術が違ってくると思います。あくまでも健康的な肌を目指すのか、患者さんの要望に応じて外見を整えることを目指すのか、という医師の方針によっても治療方法が異なるのではないかと感じています。

シミやシワをどこまで気にするべきかは悩むところです。年齢を重ねた美しさもあると思いつつ(笑)。
今野以前と比べて治療法も格段に進化していますし、シミを取って肌が良い状態になったり気持ちが明るくなったりするのは良い面だと思います。ただ、やはり、ナチュラルな美しさを損ねないことが大切だと感じますね。年齢を重ねた美しさがあって、シワがあっても笑顔が美しかったり、肌が輝いて見える人もいますよね。何よりその人の肌状態に合った治療や施術であることと、肌そのものが健康であることが美しさの鍵なのではと思います。
肌が健康であることが美肌にとって重要なのですね。それは日々のスキンケアによっても変わってきますか?
今野そうですね。毎日の保湿ケアやUVケアなどを積極的に行うことで、さまざまな肌トラブルが防げていることも多いと思います。肌が老化する原因の8割は紫外線とされているので、予防のためにも1年を通したUVケアをお勧めします。それと保湿ですよね。保湿とは、皮膚の水分を補ったり水分の蒸発を防いだりして皮膚の湿度を一定に保つことで、スキンケアの基本です。肌のバリア機能を維持し肌トラブルを避けるためにも、毎日の保湿は欠かせません。ただ、最近では年齢や性別に関係なく人々の美肌への関心や意識が高く、その分、誤った情報が溢れかえっているのも事実。そういった情報を鵜呑みにして、間違ったお手入れをしてしまうことでトラブルが増えている側面もあります。
間違ったお手入れで起こる肌トラブルとは、例えばどんなことですか?
今野例えば、乾燥が気になる時期は特に保湿ケアが重要なのですが、クリームやオイルなどで油分を補うことに注力してしまい、肌は水分不足に陥っているケースがとても多いんですね。それで、かえって肌荒れを起こしたり、ニキビになってしまったりする。
乾燥したらクリームを補うというのは、間違っていると。
今野ええ。即、油分は間違いです。肌にまず必要なのは水分です。皮膚は約70%が水分。皮膚の一番外側にある角層は、外的刺激から肌を守り潤いを保つ重要な部分で、健康な肌では20~30%程度の水分が保たれているといわれています。この角層の水分が失われると肌の乾燥が進み、バリア機能も壊れやすくなり水分が奪われやすくなります。特に空気が乾く冬の時期は、空気中にどんどん皮膚の水分が蒸発してしまうので、ローションなどでまず水分をたっぷり入れて、それからクリームや乳液で油分を補うことが重要なんです。
まずは水分、そして油分の順ですね。
今野特に乾燥する季節はすぐにクリームやオイルを塗る人が多いのですが、肌内部は乾燥している、いわゆるインナードライ状態に陥ってしまい肌荒れがひどくなることも。まずは水分を入れるように心がけてほしいですね。入浴やシャワーの後に、肌がつっぱるのは水分が蒸発している証拠なので、つっぱる前、肌に水分がある状態でクリームや乳液で油分を補うのが効果的だと思います。

ローションや美容液などを選ぶときには、保湿成分が入ったものを選ぶのがいいのでしょうか。
今野保湿成分はいわば肌に水分をとどめる働きをする成分。例えば、セラミドは角層で細胞と細胞の間で水分を抱え込んで逃さないよう保持する働きがあり、NMF(天然保湿因子)やヒアルロン酸は水分を保持する性質があるので、それらの成分を配合したローションや美容液を選ぶといいですね。
肌を保湿するには、それらの成分が入ったパックやマスクなどは有効ですか?
今野有効ではあるのですが、実は最近、パックやマスクで肌トラブルを起こす人が増えています。多くの場合、パックのやりすぎが原因です。1日2回、朝晩パックをしている人が増えていて、それによりニキビや肌荒れを起こしてしまうケースが多く見られます。
パックのやりすぎがニキビや肌荒れの原因に?
今野ええ。適度なパックというのは、肌に水分や保湿成分を与えるのに有効ですが、やはりやりすぎは良くありません。角層は外からの侵入を防ぐ働きがあるため浸透させるには限度がありますし、パックにはさまざまな成分が含まれているため、それらが肌に長い時間接触することで刺激となってしまうことは少なくないのです。長時間行うとかえって肌を乾燥させることもあります。
同様に洗いすぎによるトラブルも多いですね。毎日の洗顔やスキンケアで洗いすぎや擦りすぎをやめるだけでも肌は変わってくると思います。
患者さんと話をしていると、美容に関してさまざまな情報があり、広まっている方法の中にも正しくない情報が多いと感じます。若い世代が健康な肌に過剰なケアをすることで、かえって肌に負担をかけてトラブルを引き起こすことも多く見られます。
「ケアのしすぎ」で健康な肌にトラブルを引き起こすこともあるのですね
今野ええ。皮膚には、外部からのさまざまな刺激や外敵から体を守るバリア機能、体温調節機能や免疫器官、感覚器の役割を果たすなど重要な機能があります。健康な肌ではその構造と機能が保たれています。紫外線、環境などから肌を守り、肌老化を予防するためにも、正しい保湿ケアとUVケアを日々しっかり行いたいですよね。
最近、クリニックで保湿もできる微細な水粒子を用いた最新美容があると伺ったのですが、どのようなものなのでしょうか。
今野超微細な水粒子を用いた日本発の最新美容です。ナノサイズの水粒子を肌に当てることで、水分をしっかり肌にとどめて、なおかつ美容成分を肌に浸透させます。約1.4nm(ナノメートル)という、想像できないぐらい小さな水粒子が機器からわぁ~と飛び出してくるのですが、当然目には見えないため、「皮膚の水分量を増加させ、薬剤の導入もできる」と最初に聞いたときは半信半疑でした。でも、実際に使用してみると肌の調子が変わる感じがして、これは面白いかもと思い、それから、主にクリニックのスタッフを被検者にしていくつかの試験を行いました。
半顔だけ浴びたり、塗布する薬剤を変えたり、施術の間隔を変えたり、薬剤の導入効果のあるエレクトロポレーションとの比較もしたのですが、特に、エレクトロポレーションとの比較試験で、ほぼ変わらない効果が得られたのは驚きでした。

目に見えないナノサイズの水粒子を肌に浴びると肌に塗った薬剤が導入されるということですか。
今野そうです。それで本格的に薬剤の導入効果を検証する臨床試験を行ったところ、実際に薬剤の導入効果を実証する結果が出ました。肌の改善を望む30名の方を、使用する薬剤によってトラネキサム酸+中性ビタミンC群と、脂肪由来幹細胞培養上清液群の2つのチームに分け、2週間ごとに4回、洗顔後に薬剤を塗布して20分間、超微細水粒子を浴びてもらいました。結果、全体的にシミ、シワ、たるみ、肌のトーン、赤みの改善が見られ、保湿効果と導入効果の両方があることがわかったのです。特にトラネキサム酸+中性ビタミンC群は肝斑やシミなどに、幹細胞培養上清液群はシワや肌の明るさなどに有効でした。
水と聞くとスチーマーをイメージしがちですが、まったく違うものなのですね。
今野私も最初、そういうイメージを持ちましたがまったく違いました。ふわーっとした風と一緒に出てくるのですが目には見えない。でも、湿度計で測ると湿度は非常に高いので実際に水粒子がたくさんいるのだとそこで実感します(笑)。
水粒子で保湿というのはイメージできますが、美容成分を導入できるのは面白いですね。
今野水粒子のサイズに秘密があるようですが、メカニズムについては大学や研究機関での解明を待っているところです。クリニックでは、患者さんの肌悩みに合った薬剤を塗布して、20分間超微細水粒子を適用しています。最も多いのは肝斑やシミの方ですね。また、肌荒れやバリア機能が低下した肌にも有効です。2回目ぐらいから効果を実感される方が多く、4回で1クールとしていますが、肌のターンオーバーの周期などから考えて自然なサイクルだと感じています。


クリニックでの治療は痛みを伴ったり、ダウンタイムが必要だったりするものが多いですよね。
今野痛みがあるほうがやった気がするという患者さんも多いのですが、でも痛みを伴うということは細胞に刺激を与えるということで、皮膚にとってはデメリット。ただ、それだけ皮膚は外から薬剤が浸透しにくいわけで、そこを小さな水粒子が浸透して導入できるというのは、画期的な技術だと言えるのではないでしょうか。擦ると悪化する肝斑の方や皮膚のバリア機能が低下している方、肌の赤みなどにも有効でダウンタイムの軽減にも効果がありそうです。バリア機能が低下した肌はシミやシワなどに機器を用いた治療はできないのですがこれを用いれば可能になりますよね。
水なら安全安心ですし、しかも同時に保湿ができるのはうれしいですね
今野そうですよね。肌に触れずに薬剤が導入できますし、導入効果に加えて保湿効果にも優れていることで、肌の調子がとても良くなるとリピートする方も多いですね。
やはり患者さんの肌がキレイになるのはうれしいことですか?
今野ええ、肌が明るくなるなどして調子が良くなると、本当にみなさん、一瞬で表情が輝いてきます。それを見ているだけでこちらもうれしくなります。皮膚の状態は、非常に外見を左右するためメンタルに与える影響も大きいですよね。肌の調子が悪いと気持ちが塞ぎがちになり、逆に肌の調子がいいだけで前向きになったり笑顔が増えたり、生活にも変化が出てきます。その笑顔のお手伝いができることはうれしいですし、何よりやりがいを感じています。

形成外科専門医。皮膚腫瘍外科指導専門医。医学博士。川崎医科大学卒業。東京慈恵会医科大学形成外科助手、山形県立日本海病院形成外科医長を経て、2001年M&M スキンケアクリニック副院長に。2014年には日本で最初の美容皮膚科である石井クリニックの院長に着任。患者が抱えるそれぞれの肌悩みに合わせた処方と心に寄り添う治療に定評がある。
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